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[U.S.L.活動日記]「進化し続ける伝統」──挑戦を止めない中央大学男子バレーボール部の現在地

大学バレーボールの公式大会は、大きく分けて各地区の春季・秋季リーグ戦、東日本・西日本バレーボール大学選手権大会、そして12月に行われる秩父宮賜杯・秩父宮妃賜杯全日本バレーボール大学選手権大会(全日本インカレ)の4つが主要な舞台となる。
中央大学男子バレーボール部は、これらの公式戦や歴史ある定期戦だけにとらわれることなく、独自の試合イベントや新たな取り組みにも積極的に挑戦してきた。
大学バレーボール界で“新しい形”を模索し続ける中央大学から今回は、野沢憲治監督、学生スタッフを代表して、森柑太(3年・主務)、高橋有斐(2年・マネージャー)の2名にインタビューを行い、その取り組みと、チームに根付く「進化し続ける伝統」の精神に迫った。
■創部80周年記念試合──歴史と未来をつなぐ1日

本イベントは、中央大学バレーボール部創部80周年を記念して行われ、8月8日にアリーナ立川立飛で開催された。当日は約2,400人もの観客が集まり、会場は大きな熱気に包まれた。
総勢25名の中央大学OBが出場し、日本代表として活躍する関田誠大選手や富田将馬選手、さらには卒業後に指導者として中央大学に在籍した松永理生監督など、バレーボール界で第一線を走る豪華な顔ぶれが集結。単なる記念試合の枠を超え、中央大学の「過去・現在・未来」が一つのコートに集う特別な一日となった。
この記念試合の運営・広報面で中心となって動いていたのが、学生スタッフの高橋さんと森さんだった。
「この前のSprout Campでパンフレットや制作物を見ていただいて、“2人にも一緒にやってほしい。メインで動いてほしい”と声をかけていただきました。」
その評価をきっかけに、80周年記念試合の運営にも深く関わることとなった。
広報で特に意識したのは、出場するOB選手の発信の仕方だったという。
「出場する選手を一度に発表するのではなく、5段階に分けて順番に発表していきました。
どういう順番で出すか、どんな一言を添えるかはかなり考えました。」

「日本代表として活躍する〜」など、すぐに特定の選手が想像できてしまう表現はあえて避けつつも、インパクトのある言葉選びを意識。“発表を待つ時間さえも楽しんでもらう”という工夫が、情報発信の随所に込められていた。

公式インスタグラム@chuo_volleyより
さらに、チケットの価格設定や席種ごとの特典についても、SVリーグやプロスポーツの仕組みを参考にしながら戦略的に設計。学生主体ながら、「興行」としての完成度も高めていった。
これらの80周年記念試合の告知投稿は、最終的に30万ビューを超え、当日は2,400人もの観客が会場に足を運んだ。
「自分の投稿ひとつで、人の心を動かすことができた」——その実感は、大きな喜びと同時に想像以上のプレッシャーとなって、高橋さんの肩にのしかかった。
「正直、“もう無理かもしれない”と思った時期もありました。」
イベント本番が近づく7月後半、新たに2人のマネージャーが加わった。入部して間もない中で、それぞれが任された大きな仕事に真摯に向き合い、最後までやり遂げてくれたという。
「本当に助けられたし、2人が入部してくれたことに心から感謝しています。ただ、どうしても経験値の面から、自分に仕事が多く集中してしまうのは避けられないことだったと思います。」

やりがいもあり、楽しい時間でもあった。
しかし今振り返ると、無意識のうちにプレッシャーが少しずつ心にのしかかり、次第にそのすべてを純粋に楽しむことが難しくなっていったのかもしれない。
そんなとき、ふとした瞬間にこぼした本音を、同期の進藤悠さんと鵜沼明良さんがすくい上げてくれた。
「『有斐ちゃんだけが抱え込まなくていいよ』『とりあえずご飯行こうぜ』って、すごく軽いテンションで言ってくれたんです。たぶん、二人にとっては何気ない一言だったと思います。でも、自分にとっては本当に救われました。“自分だけで抱えなくていいんだ”って思えたんです」
誰かに話せたことで、張りつめていた糸が少しだけほどけた。そして生まれたのは、「助けてもらった分、今度は自分が支える側になりたい」という想いだった。

「同期が卒業するまでは——彼らがいる限りは、自分も頑張りたい。みんなが一番いい舞台で、一番いい成績を残せるように、チームを支え続けたいんです。理想論かもしれませんが、それが今の自分の原動力です」
頑張る理由は、勝利でも結果だけでもない。
「この人たちのために頑張りたい」と心から思える存在がいること——それこそが、高橋さんを突き動かしている。

公式インスタグラム@chuo_volleyより
当日はキッチンカーの出店やサインボールの投げ込みなどの他、出場の叶わなかったOB選手からのメッセージビデオのサプライズで会場を盛り上げた。

さらには大きなトラブルもなくスムーズな進行の中、選手と観客の笑顔があふれる空間がつくり出され、イベントは大成功をおさめた。
⬛︎駿台学園とのエキシビジョンマッチ
一方で、駿台学園とのエキシビジョンマッチは、2023年以来の開催となった。この試合では中央大学は「対戦相手として招待される側」だったが、運営面では駿台学園の生徒たちと協力しながら企画を進める立場も担った。

「基本的には、“何をするか”を教えて、実際にやってもらって、そこから学んでもらう形でした。教える立場になるのは、初めての経験でした。」
高校生とのやりとりを通して、自分たちのこれまでの経験が“誰かの学び”に変わっていることを実感した。
運営のメインを担当したのは、高校1年生の生徒だったという。SNS運用やチケット対応、ポスタービジュアルの作成まで、すべてを二人三脚で作り上げていった。
「ある意味、あの時が一番『すべてを任せてもらえた』経験だったかもしれません」
大学生として、高校生を導きながらイベントを動かす。その責任の大きさと同時に、大きなやりがいもあったと振り返る。
「80周年のときは、森さんや大人の方々が試合のベースを作ってくれていました。でも今回は、それを自分たち2人でやらないといけなかったのでタイムスケジュールが押したり、審判の方との連携がうまくいかなかったりして…
“試合は当たり前に成り立っているわけじゃない”ということを、本当に実感しました。」

時間の管理、審判との連携、全体の進行調整。
「試合をつくる」という行為の裏にある、数えきれない準備と支え。その重みを、実体験として深く感じたという。
■「好きなようにやっていい」──挑戦を後押しする環境
こうした挑戦を可能にした背景には、野沢憲治監督の存在も大きい。
「80周年記念試合の話が来たときに、野沢監督が『全部自分が責任を取るから、好きなようにやっていい』と言ってくださったんです。でも、方向性がずれていると感じたときには、ちゃんと指摘してくださって、軌道修正をしてくれました。」
野沢監督自身も、大学バレーの持つポテンシャルを強く信じている。高校バレーやSVリーグでは何万人もの観客を集める一方、大学バレーはまだ十分な注目を集めきれていない。
だからこそ、Sprout Campなど「新しい仕掛け」をつくる必要があると語る。
また、SVリーグに進む選手はごく一部だからこそ、「運営」「企画」「組織づくり」に関われる人材の育成にも力を入れていきたいという想いがある。

「挑戦していい」「失敗してもいい」
その空気が、学生たちの背中を押す原動力になっているのだ。
■“人として成長したい”という原点
主務を務める森さんは、このチームに入った理由をこう語る。
「自分がこのチームに入った理由は、“バレーボールを通して人間として大きく成長したい”と思ったからです。」
プレイヤーとしてではなく、「人としての成長」にフォーカスする現在の自分の立場を、前向きに受け止めている。
「プレーの技術では成長できませんが、でもその分、“人との関わり方”や“社会人としてのマナー”を、このチームですごく学べていると感じています。」
最初は、社会人にメールを送ることすら分からなかったという。
「でも、80周年の準備やSprout Campなどを通して、“社会に出る前の経験”を、失敗してもいいからやってみる、という環境で学べたことは本当に大きいです。」

その根底にあるのは、シンプルで真っすぐな想いだ。
「自分はずっと『経験値を増やしたい』『成長したい』という気持ちで動いていて、それ自体が自分のモチベーションになっています。」
■進化し続ける「伝統」
「伝統」と聞くと、変わらないもの、守り続けるものというイメージが強い。しかし、中央大学男子バレーボール部の伝統は、少し違った形をしている。
「“進化し続ける伝統”という言葉が中大らしさだと思っています。80周年で歴史を学ぶ機会があったからこそ、強く感じました。
伝統って、ただ守るだけだとそこで止まってしまう。でも、“進化し続ける伝統”であれば、それが次につながっていくと思うんです。」
だからこそ、自分の役割は「その流れを止めないこと」だと、高橋さんは言う。

「今、自分ができることは、“進化し続けられるようにすること”だと思っています。」
長い歴史を持ちながらも、常に新しいことに挑戦し続ける中央大学男子バレーボール部。
80周年という節目を、ただ振り返るだけのものにするのではなく、「次の時代へつなぐための挑戦の場」に変えた。
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試合の勝敗だけではなく、裏側で積み重ねられている数えきれない経験。
それら一つひとつが、中央大学男子バレーボール部の“今”を形づくっている。
「進化し続ける伝統」は、誰かの言葉ではなく、日々の行動の中に息づいている。
コートの上でも、コートの外でも。
中央大学の挑戦は、これからも続いていく。

中央大学男子バレーボール部
(文=並木汐音、写真=中央大学男子バレーボール部)
取材日: 10月30日









